大きな家のボロキッチン
別居だったはずなのに! ある日突然の「壁紙選んでね」という義母の言葉に呆然、あれよあれよという間に同居のための改装終了。 卯年生まれの私も義母が雑事から解放された年齢になりました。うさぎが茨の道を脱出できる日はいつ?
車から降りて門扉を開けると裏庭から義母が洗濯物を抱えてゆっくりと歩いている姿が目に入りました。
反射的に背中を向けて、郵便受けに入っている広告やダイレクトメールを時間をかけて出しました。
背中を丸めてすり足で歩く姿はどこから見ても老婆です。
日頃の出掛ける時のピンシャンな姿はどこにも感じられませんでした。
いずれ、自分もああなるんだ、その時...
ひとりぼっちだったらどんなふうに毎日を過ごしているのでしょうか。
義母のように息子がまめに世話を焼いてくれる環境にありません。
足しげく通ってくる姉妹も娘もいません。
部屋に入って郵便物を整理していると、はずみで見学したマンションの資料がありました。
熱心に電卓を叩くマザオを尻目に、私はもらった温泉まんじゅうを頬張りながら年末調整の提出書類を眺めていました。
早いもので職場ではクリスマスケーキはもちろん、おせちの予約が始まっています。
かつて、「何歳になった?」と自分の息子や娘に聞く義母を「嘘でしょ!?」と信じられない思いで見ていた私ですが、ついに自分も同じようになり始めています。
えーっと、とばかりに指折り数えないと間違えてしまいそうです。自分の子供の年齢もわからなくなるなんて...
考えてみれば、おしゃべりにも「あれ」「それ」の代名詞が増えました。
仲良しさんとは「あれあれ、ほらー」で通じ合えたりするから不思議です。
「思い出せないけど分かるよ」なんて調子ですから。
笑い話で盛り上がっているうちはいいですが、
行き着くところは「こんな年まで同居で苦しめられたまま」なのです。
いつまでも前進しない私です。
いつかは義母と同じように、
走ろうと思っても走れなくなり、背筋を伸ばしてるつもりでも背中を丸め、当たり前のことが思い出せなくなるのでしょう。
そうなる前に!
自由になりたい!!
自由が欲しい!!
普通でいいから自由になりたい!!

にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村
PR
先日、思わぬモデルルーム見学となったマンションの資料をどっさり持ち帰りました。
いつもの私ならもっと感情的に盛り上がってます。
いくら現実的でないと言っても、宝くじが当たったらどう使おうかと電卓まで持ち出して妄想の中で突き進む私がまるで他人事、興味関心が湧き上がりません。
あまりに関係のない話だからなのか、それとも今の自分の環境がみすぼらし過ぎる悲しみを封印しているのか、自分でもわかりません。
ただマザオだけは大盛りあがりです。
一階なら庭付きだとかこの部屋が間取りの割に安いとか。
「ふうん」
「へえ」
気の無い返事しか出ない私です。
買えたらいいなとは思います。
そりゃあ、義母とおさらばして新築マンションへ入居できたらどんなに嬉しいでしょう!
想像しようにも想像できないくらい夢のまた夢、宝くじ当選レベルですね。
モデルルームで、両手を広げても端から端へ手が届かないキッチンカウンターに立った時、なぜか涙がこぼれ落ちそうになって唸るふりをしながら必死で堪えました。
こんなキッチンを自由に使えたら...
誰にも気兼ねせず友達を呼べたのに...
お風呂に至っては言わずもがな...
何もかもが自由な自分たちだけの空間、素晴らしすぎる環境と自分が何十年と耐えてきた現状の雲泥の差に改めて愕然とした失望の涙かもしれません。
だからこそ、現実のボロキッチンの家に戻ってまで、新築マンションのあれこれを言われても虚しいだけなのです。
却って惨めな思いだけが募るから。


にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村